はじめに
PCやサーバーが別のネットワークへ通信するときは、通常、デフォルトゲートウェイとして設定したルーターを経由します。ところが、そのルーターが1台しかなければ、ルーターの故障によって外部ネットワークへ通信できなくなる可能性があります。
VRRP(Virtual Router Redundancy Protocol)は、複数のルーターを仮想的な1台のルーターとして扱い、デフォルトゲートウェイを冗長化するためのプロトコルです。この記事では、端末側のデフォルトゲートウェイ設定を変えずに、障害時に別のルーターへ転送役を切り替えられる仕組みを理解します。
この記事で分かること
- VRRPが何を冗長化するプロトコルか
- 仮想ルーターと仮想IPアドレスの役割
- Active RouterとBackup Routerの違い
- Active Routerの障害を検知して切り替わる流れ
VRRPとは
VRRPは、同じLAN上の複数のルーターで「Virtual Router(仮想ルーター)」を構成し、その仮想ルーターを端末のデフォルトゲートウェイとして利用できるようにするプロトコルです。物理的には複数台のルーターがあっても、端末からは共通の仮想IPアドレスを持つ1つのゲートウェイとして利用できます。
通常時は1台のActive Routerが仮想ルーター宛ての通信を転送します。Active Routerが利用できなくなると、Backup Routerの1台が新しいActive Routerとなり、同じ仮想ルーターの転送責任を引き継ぎます。そのため、端末ごとにデフォルトゲートウェイの設定を変更する必要がありません。
2024年に公開されたRFC 9568では「Active Router」「Backup Router」という用語が使われています。以前の仕様や機器の資料では、Active Routerに相当する役割を「Master Router」と表記している場合があります。
仮想IPアドレスをデフォルトゲートウェイにする
VRRPを使わない場合、端末のデフォルトゲートウェイには、通常は特定の物理ルーターのIPアドレスを設定します。この物理ルーターが故障すると、別のルーターが動作していても、端末がそのルーターを自動的にデフォルトゲートウェイとして使えるとは限りません。
VRRPでは、VRRPを動作させる複数のルーターで共通して扱う仮想ルーターにIPアドレスを関連付けます。端末はこの仮想IPアドレスをデフォルトゲートウェイとして使用します。どの物理ルーターがActive Routerであっても、端末から見たデフォルトゲートウェイのIPアドレスは変わりません。

Active RouterとBackup Router
VRRPでは、仮想ルーターの転送責任を持つルーターがActive Router、それを引き継げる状態で待機するルーターがBackup Routerです。複数のBackup Routerを構成することもできます。
どのルーターをActive Routerにするかは優先度などによって決まります。一般的には優先度が高いルーターがActive Routerとして選ばれ、Active Routerが利用できなくなると、利用可能なBackup Routerのうち優先度の高いものが新しいActive Routerへ移行します。
重要なのは、端末が物理ルーターの役割変更を意識しないことです。Active Routerが変わっても、端末は引き続き同じ仮想IPアドレスをデフォルトゲートウェイとして使います。
AdvertisementでActive Routerを監視する
Active Routerは、VRRP Advertisementと呼ばれるメッセージをマルチキャストで定期的に送信します。Backup RouterはこのAdvertisementを受信することで、Active Routerが動作していることを確認します。
既定のAdvertisement間隔は1秒ですが、「3回受信できなければ必ず故障」と単純に決まっているわけではありません。Backup RouterがActive Routerの停止を判断する時間は、受信したAdvertisement間隔と自身の優先度から計算されます。基本的には、一定時間Advertisementを受信できなければActive Routerが利用できないと判断し、切り替え処理へ進むと理解すれば十分です。
障害時にBackup Routerへ切り替わる流れ
通常時はActive Routerが仮想IPアドレス宛ての通信を受け取り、ルーティングテーブルに従って転送します。Backup Routerは仮想ルーターとしての転送役を担当せず、Advertisementを監視します。
Active RouterからのAdvertisementが規定時間届かなくなると、Backup RouterがActive Routerへ移行します。IPv4では、新しいActive Routerは仮想IPアドレスに対応する仮想MACアドレスを通知するgratuitous ARP(GARP)を送信し、LAN上へ新しいActive Routerへの切り替えを反映します。
この切り替えによって、端末はデフォルトゲートウェイとして設定した仮想IPアドレスを変更することなく通信を継続できます。ただし、切り替え中に短時間の通信断が発生する可能性はあります。
仮想MACアドレスも使う理由
IPv4のLANでは、端末が同一LAN上の宛先へEthernetフレームを送るために、IPアドレスに対応するMACアドレスを知る必要があります。IPアドレスからMACアドレスを調べる基本的な仕組みは、ARPとは?IPv4でIPアドレスからMACアドレスを調べる仕組みを解説で解説しています。
VRRPでは仮想IPアドレスだけでなく、仮想ルーター用のMACアドレスも使用します。Active Routerは仮想IPアドレスに対するARPへ、仮想MACアドレスを使って応答します。そのためActive Routerが別の物理ルーターへ切り替わっても、端末から見た仮想ゲートウェイのIPアドレスとMACアドレスの組み合わせを維持できます。VRRP Advertisementでも仮想MACアドレスが送信元MACアドレスとして使われ、LAN内のスイッチが転送先を学習するためにも利用されます。
VRRPと動的ルーティングは役割が違う
VRRPは、OSPFやBGPのようにネットワーク全体の経路を計算・交換するためのルーティングプロトコルではありません。VRRPが担当するのは、端末が最初に利用するデフォルトゲートウェイの役割を複数のルーターで引き継げるようにすることです。
一方、静的ルーティングと動的ルーティングの違いとは?経路設定の仕組みを解説で扱う経路制御は、ルーターが宛先ネットワークへの経路をどのように持ち、選ぶかに関係します。実際のネットワークでは、VRRPによるゲートウェイ冗長化と、ルーティングによる経路制御を組み合わせて利用できます。
まとめ
VRRPは、複数のルーターで仮想ルーターを構成し、デフォルトゲートウェイの単一障害点を減らすためのプロトコルです。端末は共通の仮想IPアドレスをデフォルトゲートウェイとして使い、通常時はActive Routerが通信を転送します。
Active Routerが利用できなくなると、Backup RouterがAdvertisementの停止を検知してActive Routerへ移行します。仮想IPアドレスと仮想MACアドレスを引き継ぐため、端末側の設定を変更せずにゲートウェイの転送役を切り替えられる点がVRRPの中心的な仕組みです。